本日、パイプオルガン奏者 細川久恵さんのリサイタル「音景」が無事に終了いたしました。
この度はコロナ禍にもかかわらず「音景」リサイタルにお越しくださった生徒の皆様方、本当にありがとうございました。このプロジェクトのお話は3年前にいただき、ようやく叶いました。
1部で書いた文字は、「天の海に雲の波立つ月の星 星の林に漕ぎ隠る見ゆ」「光風音」。細川さんがインスパイアされたイタリア・フィレンツェの丘の上にある修道院のお話を伺い、その幻想的な空間を私も共有したいと考え実際にヨーロッパへ、当時3歳の息子を連れて足を運びました。12時を告げる鐘の音を聞きながら街を見下ろした時の景色思い出しながら描きました。
そして2部のトッカータに挑むが如く選んだ「曙」には、オリジナルで作った筆の名前にも使用しましたが、「夜明け、新しく事態が展開しようとする時」の意があります。風の時代へ突入し、世の中の常識がガラリと変わりました。コロナにより日常が奪われ、芸術に触れる機会も失いました。コロナにより書道パフォーマンスなどのイベントのお仕事は全キャンセル、リサイタルも1年の延期を余儀なくされ、書道展ものきなみ中止が相次いだ一年となりました。コロナの収束を切に願い、筆を執りました。
生の空間をお客様と共にリアルで共有できる場は、今となっては非常に贅沢な瞬間で、知らずのうちに疲れきった心を癒してくれた人も多いのではないかと思います。
ここで、改めて矢部澄翔から学ぶ意味を考えていただきたいのです。私の体は一つですので、できることに限界があります。書の技術や考え方は眞墨の講師や師範生に伝授していますので、私から直接でなくても学んでいただけるような体制作りを整えています。教室で書の練習をするのはもちろん大切ですが、それ以上に展覧会やイベントなどに直接足を運んでいただき、書で表現することの可能性、面白さをもっともっと感じて欲しいと思っています。コロナ禍でなかなか自由がきかないという人も多いかと思いますが、私が芸術家として生徒の皆様にできることは、背中で示すことだと思っています。今回のリサイタルに足を運んでくださった方は、私が何をメッセージとして発したかったのか考えていただき、何か一つでも得られるものがあれば幸いです。
7月4日(日)まで、国立新美術館で開催中の同人展に作品が展示されております。自分が学んでいる先生がどんな作品を書いているのか、特に児童生徒の親御さんは是非お子さんと美術館を訪れてみてください。最高の情操教育になります。この同人展は日本教育書道芸術院の師範資格を有するものしか展示が許されない、年に一度作家として書表現を追求できる最高の場となっており、たくさんの大作が並びます。今回、創設者 故 大溪洗耳先生の生の作品も展示されます。書の生きた線は生で観てなんぼです。是非ご高覧いただければと思います。
今回は感染対策防止のため、来場者の皆様との交流も会場規定により控えさせていただかなくてはならなくなり、それだけは非常に心残りとなりましたが、このような中で表現する機会をいただき皆様と共有できたことを心より感謝申し上げます。
ありがとうございました。
2021.6.26 矢部澄翔